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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1178号 判決

控訴人 オーブレー・エイチ・ニユーランド

被控訴人 岡建設工業株式会社

主文

原判決中控訴人に関する部分を取り消す。

被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、認否、援用は、被控訴代理において、〈立証省略〉控訴代理人において、「被控訴人が土木建築請負業を営む会社であること、エイ・エイチ・ニユーランド・エンド・コンパニー・リミテツドが外国会社であつて、控訴人がその日本における代表者であること、同会社が日本において取引をしたことは認めるが、同会社が日本において登記公告をしていないとの点は否認する、その他の被控訴人主張事実は知らない。同会社は昭和二十七年七月十五日東京法務局日本橋出張所において商法第四百七十九条の規定による登記手続を完了して業務を継続しているものである、なお被控訴人主張の取引の当時の同会社の日本における代表者はエイ・エム・クレコフである、」と陳述し〈立証省略〉た外、原判決事実摘示の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

職権を以つて按ずるに、本件第一審判決は昭和二十九年十二月二十一日午後一時東京地方裁判所において言い渡され、同月二十七日公示送達の方法により控訴人に送達され、その公示送達は民事訴訟法第百八十条第一項但書の規定によつて翌二十八日送達の効力を生じたものであるところ、控訴人はその控訴期間経過後である昭和三十年六月十六日当裁判所に控訴の申立をしたことが記録上明らかである。よつてその控訴の適否について審究するに、記録によれば原審において被控訴人は控訴人と原審被告LTD・A・H・ニユーランド商会を共同被告として共同請負工事代金分配請求の訴訟を提起し、原審被告エイ・エイチ・ニユーランド商会に対しては住所不明を理由とし、控訴人に対しては外国においてなすべき送達につき民事訴訟法第百七十五条の規定によることができないことを理由としていずれも公示送達の申立をなし、原審においてこれが許容されて、公示送達の方法により右両名とも不出頭のまま審理の上判決言渡があり、その判決の送達もまた前示のように公示送達によつてなされたことを認めることができるところ、当審証人リオン・アイ・クリーンパークの証言及び弁論の全趣旨を合わせ考えると、控訴人は前示訴訟の提起されたことも、その第一審判決言渡のあつたことも、その当時全く知らず、原判決の執行力ある正本に基ずき控訴人所有の自動車について強制執行手続がなされ、その競売期日が指定された後昭和三十年六月十日にいたつて初めてその事実を知り、直ちに判決正本を受領した上同月十六日当裁判所に控訴申立の手続をとつたものであることを認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると控訴人はその責に帰すべからざる事由によつて右控訴期間を遵守することができなかつたものというベきである、しかして控訴人は右判決の言渡及び送達の事実を知つた時から一週間以内に控訴申立をなしたのであるから、右懈怠された訴訟行為は民事訴訟法第百五十九条の規定により追完されたものであつて、本件控訴の申立は適法である。

よつて本案について判断するに、被控訴人と原審被告LTD・A・H・ニユーランド商会との間に被控訴人主張のような共同請負に関する契約が結ばれたこと、及びこれに基ずいて被控訴人と米国駐留軍日本建設局との間に被控訴人主張のような工事請負契約がなされたことは当審及び原審証人津田嘉久及び原審証人和田栄一の各証言、被控訴会社代表者小玉末松の供述及び右証言並びに供述によつて真正に成立したものと認むべき甲第一、二号証の各一ないし四、同第三号証の一、二によつてこれを認めることができる。次に被控訴人は、原審被告LTD・A・H・ニユーランド商会は外国において設立された会社であるにも拘わらず、日本においてその営業所の設置につき登記及び公告を欠くので、同会社の代表者である控訴人は商法第四百八十一条第二項の規定によりその取引について会社と連帯して責任を負うべきであると主張して、前示共同請負に関する契約に基ずき同会社が被控訴人に支払うべき工事代金分配金の支払を控訴人に対して請求するのであるが、成立に争のない乙第一号証によると、原審被告LTD・A・H・ニユーランド商会は商号を「エイ・エイチ・ニユーランド・エンド・コンパニー・リミテツド」と称し、香港クイーンズ・ロード香港チヤイナ・ビルデイング内に本店を有し、香港会社法に準拠して設立された会社であつて、昭和二十七年七月十五日千代田区麹町六番町五丁目一番地に営業所を設置した旨東京法務局日本橋出張所に登記されてあるものであること、従つて被控訴人主張の取引当時、商法第四百七十九条の規定により登記を経た会社であることが明らかである、(成立に争のない甲第六、七号証は、その記載内容を検するに、商号の表示及び営業所所在地の表示が相違するのでこの点に関する反証となし難くその他右認定を覆えすに足る証拠はない)そうすると本件は商法第四百八十一条第二項に規定する場合に該当しないことが明らかであるから、控訴人は被控訴人主張の取引について同条に基ずく連帯責任を負うべきいわれはない。されば被控訴人の控訴人に対する請求は爾余の点につき判断するまでもなく失当であつて棄却を免かれない。よつてこれと結論を異にする原判決は失当であるからこれを取り消し、被控訴人の請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十六条を適用し、主文のとおり判決した。

(裁判官 岡咲恕一 亀山脩平 脇屋寿夫)

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